今日の青空は、ここ数日の中では優しいと思った。
我が家には今、息子が買っている蟷螂(カマキリ)がいる。
肉食ゆえ、蝶や蝗を捕らえてきては同じ虫かごへ入れておく。
それをカマキリは良い頃合いで素早く捕らえて、喰らう。
死んでしまうと食べない。
動いているものに反応するから。
そんな愛カマ(?)のために、長男は大きめの蟋蟀(コオロギ)を捕まえてきた。
厳密には、コオロギのようなキリギリスのような見た目の鳴く虫に見えたが、やはり、夜になり玄関の虫かごから大きな鳴き声がした。
リリリリリ
リリリリリ
リリリリリ
風流だったのははじめだけで、徐々にうるささが勝った。
しかし、ふと明け方目覚めて私一人で耳を澄ましていたら…
リリリリリ
リリリ、リリ゛っ゙…
……
静寂。
ああ、捕えた、
それまでうるさく思っていたのに、急に切なくなった。
かたや、産卵や交尾に備えて栄養を蓄えたいメスのカマキリ。
かたや、メスを求めて鳴くオスコオロギ。
ひと夏、一度きりの秋に、子孫を残すのに少しでも良いパートナーと認めてもらうべく、声を枯らして(実際は枯れないのだろうが)鳴き続ける。いわば、恋を求めて鳴く虫。
ハンターとしての力を常に蓄え脱皮を繰り返し、時には交尾相手のオスをも食べ尽くして命を繋ぐ、人間からしたら歪んだ愛のカタチすら思わせる虫。
生と生のぶつかり合い。
本能むき出し、逆に清々しく艶かしくすらある。命を全力で燃やしている。
ひたすら与えられた命を真っ直ぐに生きているから、胸を打ち、惹きつけられる。
話は少し変わってしまうが、時々私は、周囲の人達から「あなたの長所は素直なところ」「真っ直ぐ、誠実なところ」「ストレートすぎるところは短所ですらある」と、とにかく真っ直ぐな性格を指摘される。
それが転じて「素直すぎて、逆に魔性だ」とか「男性をダメにしそう」と言われたことも過去から今まで実は度々ある。
恥ずかしながら私には自覚がなかったのだが、そういう「素直」「真っ直ぐ」は、一見真逆にも思えて、自分には遠い存在と思っていた「魔性のオンナ」に、意図せずになり得るらしい、ということをここまでの人生で、学んだ。
果たして褒められているのか、戒めとした方が良いのか…
いずれ色んな助言を糧に、良い方に己の気質を生かしていきたいものだ。
…虫たちのことを考えて眠れなくなった布団の上で、そんなことまで飛躍して考えてしまったのだった。
そうして微睡み、起きて階下へ行くと、足だけになった蟋蟀と、お腹が大きくなった蟷螂が朝の光に当たっていた。
何やかんや理屈を語ったが、そもそも恣意的に食うか食われるかの状況を引き起こした、私たち親子の業の深さ、人間のエゴを思い、切なさに浸りつつ、いつものように、朝の支度を始めたのだった。