先週のはじめ頃。
信号待ちをしていたときに、道の端の方に、ロープのようなものが動いていた。
…蛇だった。
大きくて、ゆったりした動き。
アオダイショウだろうか。
どこへ向かうのか分からないが、とにかく前へ進んでいた。
何も道具を持たない状況で、その蛇の進む方向を変えてやることは難しそうだったので、無駄だと分かりつつも「ここは車が多いから、轢かれてしまう、山にお帰りよ」と声をかけてみた。
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私の実家の前には、蛇を祀った祠があり、祖父はお盆など折々に手を合わせていて、私もそれに倣った。
「蛇は殺せばわがねぇ、神様だすけ」
(蛇は殺してはいけないよ、神様だからね)
…何度祖父のその言葉を聞いただろう。
…そんなわけで、殺したり危害を加えたりすることはしてはならない存在、というのが心に染み付いている。
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数日後、同じ道を車で通りかかった。
車の赤信号待ちで何気なく横を見たら、アスファルトの地面に見覚えのあるロープのような形。
…また、蛇だった。
しかし今度は、ピクリとも動かない。
見た目には大きな傷はなさそうだが、どうやら息絶えたか、虫の息か。
チクリと心が痛んだ。
せめて、土のあるところに置いてやりたい。
しかし信号は青になり、後ろ髪を引かれつつその場を去った。
そして、一昨日、改めて同じ道を通った。
朝から強く、刺さるような陽射し、両側から迫る夏の濃い緑の中、同じ場所に、連日の猛暑酷暑によってカラカラに乾いた亡骸。
ぼろぼろになり、焦げた焼き魚のように、皮や欠片がパラパラと散る。
どうすることも出来なくて、思うだけで何も動けなくてごめんなさい、と、しばし目を瞑る。
最初に見た蛇と、瀕死の蛇は同じヘビだったのか。
分からないけれど、道傍のいのちが消えて朽ちてゆく光景を、結局見ていることしか出来なかったな、と、また、心がチクリと痛んだ。
しかし信号は無情にも青になり、走り去ってしまったあともなお、脳裏に残像だけが、残った。