遅くてもやらないよりまし

シングルマザーの会社員の日々の考えごと

道傍のいのち

先週のはじめ頃。

信号待ちをしていたときに、道の端の方に、ロープのようなものが動いていた。

…蛇だった。

大きくて、ゆったりした動き。
アオダイショウだろうか。

どこへ向かうのか分からないが、とにかく前へ進んでいた。


何も道具を持たない状況で、その蛇の進む方向を変えてやることは難しそうだったので、無駄だと分かりつつも「ここは車が多いから、轢かれてしまう、山にお帰りよ」と声をかけてみた。


********************

私の実家の前には、蛇を祀った祠があり、祖父はお盆など折々に手を合わせていて、私もそれに倣った。


「蛇は殺せばわがねぇ、神様だすけ」
(蛇は殺してはいけないよ、神様だからね)

…何度祖父のその言葉を聞いただろう。


…そんなわけで、殺したり危害を加えたりすることはしてはならない存在、というのが心に染み付いている。

*******************


数日後、同じ道を車で通りかかった。

車の赤信号待ちで何気なく横を見たら、アスファルトの地面に見覚えのあるロープのような形。

…また、蛇だった。

しかし今度は、ピクリとも動かない。

見た目には大きな傷はなさそうだが、どうやら息絶えたか、虫の息か。

チクリと心が痛んだ。
せめて、土のあるところに置いてやりたい。

しかし信号は青になり、後ろ髪を引かれつつその場を去った。



そして、一昨日、改めて同じ道を通った。

朝から強く、刺さるような陽射し、両側から迫る夏の濃い緑の中、同じ場所に、連日の猛暑酷暑によってカラカラに乾いた亡骸。


ぼろぼろになり、焦げた焼き魚のように、皮や欠片がパラパラと散る。


どうすることも出来なくて、思うだけで何も動けなくてごめんなさい、と、しばし目を瞑る。

最初に見た蛇と、瀕死の蛇は同じヘビだったのか。

分からないけれど、道傍のいのちが消えて朽ちてゆく光景を、結局見ていることしか出来なかったな、と、また、心がチクリと痛んだ。


しかし信号は無情にも青になり、走り去ってしまったあともなお、脳裏に残像だけが、残った。