遅くてもやらないよりまし

シングルマザーの会社員の日々の考えごと

或る春の午後

昔のことを夢に見た。
春のキラキラした景色の、実家があった町の小道を散歩する夢。



目覚めて不意に思い出したのは、中学1年の春休みのこと。

当時好きだった人が3月でお別れになることが決まった。
向こうも憎からず思ってくれていたのか、時々一緒に帰ったり、互いの好きな本やカセットテープを借りたり貸したりしていた。

引っ越して遠くへ行くと知り悲しかったが、子どもだった上に今より連絡手段も乏しく、その先の交流を諦めようとしていた。


3学期の最後の登校日、彼から、3月30日に最後に学校に行く用事があるから少し会おうよ、と言われた。

私も部活に行く日だったから、了承した。


風が強い日だった。
そして、いつもの年より暖かくて、太陽が明るくてキラキラして、これから来る本格的な春を前に、雪の白と新芽の黄緑が混じり合うきれいな景色の中を、ゆっくり歩いて学校に向かった。


部活が終わり、吹奏楽部だった私は、みんな帰った音楽室でピアノを弾いて時間を潰していた。

そこにひょっこり彼が来たので、またピアノを弾いた。


今日で会えなくなるのかと寂しかったが、言うと泣きそうだったので、以前彼に頼まれ耳コピした曲を弾いた。
こう弾くんだよ、と教えていたらお互いの手がぶつかって、あわわわわ…となり、黙ってしまった。

結局、その後はお互い気を取り直して、いつもどおりのトーンで楽しく話して帰路についた。


風強いのと花粉のせいで涙が出るよーといいながらごまかして、キラキラしたお日様の下、一瞬だけ手を繋いで、あとは握手して、サヨナラ。



中学生の2人に、そのあと何かときめくような出来事など起こす勇気は無かったし、その後一度だけ休みに映画を見に行って、何度か文通して途絶えたが、大人になった今でもあの日のことはいい思い出として鮮明に記憶に残っている。



そして今、その時に音楽室で弾いた曲を、また家で練習しようかと思っている。